新型うつ病について

 誰が使い始めたのか知りませんが、「新型うつ病」という言葉が流行ったことがあり、いまも時に使われることがあります。とくに2012年NHKスペシャルで『職場を襲う「新型うつ病」』という番組が報道されたことがあります。この番組ではドラマ形式で「新型うつ病」の男性が、上司に叱責されたことを機に、うつ状態の診断のもと休職をして、上司を批判し、休職中にリゾート地にでかけたり、合コンや飲み会に行ったりして、軽薄な言動が目立ちます。このことからも「新型うつ病」は印象的でした。この男性は、最後には上司とも和解して立ち直るというストーリーでした。しかし、こういった事例が時々あるのではないか、あるいは増えているのではないかとも思われ、会社側も警戒心を強めていきました。同じ時期に週刊文春でも「新型うつ病は病気か?サボりか?」という特集が組まれたことがあります。これは会社という現場から生まれた観点でもあります。

 

 「新型うつ病」とは医学的な診断名ではありません。精神医学から見ると、これは一つの社会現象のようなもの、社会問題であろうと考えられます。そのようなことから、精神医学のなかでは、まるで診断名のようにも見えかねない「新型うつ病」は紛らわしいと繰り返し語られ、次第に一般的にも使われなくなりました。また、いわゆる「ブラック企業」という言葉が生まれ過酷な就労環境がクローズアップされ、また日本独特の長時間就労の習慣もあり、また日本の就労者の質は世界トップレベルだとも考えられるようにもなり、そして何よりも総じて若者が堅実に物事に取り組む風潮もがみられるために、「新型うつ病」という言葉はだんだんに使われなくっていると思われます。しかし、おそらく、いまだに生き残っている言葉でもあります。

 

 

 

 

 さて、「新型うつ病」という言葉は精神医学の中には存在しませんが、それでは「新型うつ病」は医学的に見ればどのような内実なのでしょうか。箇条書きによって列挙してみたいと思います。

 

 

 

・波の大きなタイプのうつ病。

これは不安障害とうつ病の混ざったようなタイプのうつ病で、ストレスフルな状況になると不調をきたしやすくなります。不安、抑うつが発作的に生じやすいです。過眠や過食を特徴ともします。「非定型うつ病」とも呼ばれたりもします。不調でない時には、なんとも無かったりもします。

 

・典型的なうつ病の前段階。

 典型的なうつ病の病前性格の一面には、律儀で、堅実であり、まじめに仕事に取り組むというところがあります。また熱中性もあり、持続性もあります。こういった方々はとても良く評価されるのですが、どこかで不調をきたして、まれにうつ病になることがあります。日頃からストレスマネジメントが大切です。しかし、うつ病になりそうだというまえに、こういったうつ病の病前性格自体を放棄してしまい、逆の性格を形成して防衛しているように見える場合があります。縮めて言えば「軽薄」になるのです。

 

・双極性障害(2型)。

 気分や意欲の波が生じやすいのが特徴です。軽い躁状態では快活で自信がでてきて、人ともよく話して交友関係も拡がり、遊びも含めてスケジュールが増え、買い物も増えたりしがちです。その逆に、抑うつ状態になったりします。日によって上がったり下がったりすることもあります。双極性障害には1型と2型がありますが、1型は躁状態が明瞭なのに対して、2型は躁状態が不明瞭です。

 

・軽い自閉症: 自分の興味のあることには熱心に行うことで満足できますが、一方的であったり、こだわりが強くて繰り返しになりやすく、また、過去に受けた心の傷をいつまでもこだわることもあります。軽い自閉症の場合、特殊な能力が非常に高く、仕事も優秀だったりします。

 

・パーソナリティ障害。

 性格の偏りがとくに著しく、対人関係や社会生活に支障をきたすものです。とくに自己愛が強いタイプであり、なおかつ、ストレスに弱い場合。

 

・適応障害:本来医学的な意味での適応障害とは、例外的な強いストレスに対処できずに心身の状態が悪くなるものです。環境が変化することで、早く改善することもあります。

 

・軽度の統合失調症。

 

・軽度の知的障害。

 

・その他の性格的な要因。

いわゆる「意志薄弱」。

これもふくめて、性格的要因については医学的な範囲を超えて多様なものがあります。性格的要因は生まれながらの気質、生育環境、本人の要因、そして社会的な要因が組み合わさって形成されます。

 

 以上で列挙しましたが、単一のもので決定されるのではなくて、いくつか混在していることもあります。

 

 

対応について

 対応については以下のものが考えられます。

 

・上司や会社との信頼関係の再構築。それによって能力を発揮できるようになり、会社にも貢献できることも望めます。

 

・上司一人に抱え込ませすぎず、場合によっては上司との組み合わせを変えてみるのも一法です。

 

・仕事の適性があっているかどうかの見直し。

 

・精神科治療への導入。